ハプニングだらけ、成長をさせてくれたアメリカという国 vol.29
語学留学、大学、グリーンカード、ピアノ、仕事の20年(インディアナ大学編)
こんにちは。Ichikawa Piano Schoolの福山です。今アメリカのハーバード大学では留学生の受け入れを一時停止する、留学生を他の大学に転校してもらうなどの問題が出てきていますが、もし私が該当していたらと思うとゾッとします。(私の時は民主党のクリントン大統領とオバマ大統領。トランプ大統領が1回目に就任した時にアメリカを脱出しました。)
前回のお話の続きで自分の大学院のリサイタルに向けて一心不乱に練習をしているところ。徐々にリサイタルの日が近くなってきても、もちろん勉強もすごい勢いで学生を追い詰めるし、伴奏や室内楽のリハーサルもドッサリ、仕事も毎日5時間しなきゃいけないし。大学の事務の場所から音楽学部の建物に行くのに歩いて5分くらいの所でもあまりにも疲れすぎてバスに乗って音楽学部に行ったりとピアノ練習のために出来るだけエネルギーを取っておこうと妙な行動もしていました。
夜は寝ても3,4時間。真夜中に突然目が覚めて心臓がバクバクしていて汗をビッショリかいている、真冬なのに暑すぎて眠れない、そんな日が何日も続いたり、背中全部痛くなって学校までもたどり着けなかったり、お腹も毎日何回壊しているのか。そこまでしてでもどうしてもインディアナ大学から大学院の学位を手に入れたい、ピアノを上手くなりたい。
私のリサイタルはなんとも夜の10時スタート。その日は熱っぽく風邪をひいているような気分。朝から授業、そして5時間の仕事。この日は一切リハーサルは無しにして、自分のリサイタルに集中します。時間が近づくにつれ、先生のオフィスをリサイタル前の練習のために占領しようと先生が出ていく瞬間を見計らって即入室。あまりガリガリ練習はせずに合間を見ては学部の中をゆっくり歩き、世界中から集まった沢山の学生が必死に練習をしていて、あらゆる楽器の音が入り混じってグワングワンの大音量があちこちから聞こえてくるいつもの音、窓から外を眺めると道を歩いている学生たちがいたり、外の芝生の所で金管楽器を吹いている学生がいたり。’あー、きっと練習室が空いてなくて外で練習してるんだろうな’と思いながら又先生のオフィスに戻って少し練習、そして心を整えて落ち着くように、体をほぐしながら時間を過ごしていました。軽めの夕食も持ってきていたのでラウンジで食べながらボーっと時間を過ごし、また先生のオフィスに戻ってあまりピアノから離れないようにしていました。あれだけ練習してるのにピアノから一瞬でも離れると覚えた音符が全部忘れそうな気がする、心配してもしょうがない事とは分かっていても止められない。心の中の悪魔がささやき始めます。リサイタルの当日まで何度も自分に言い聞かせてきたはず、’極度の緊張さえしなければ私は出来る、大丈夫’。それでも悪魔が言い続けるんです、’間違ったらどうするの?舞台で全部忘れたら始めから弾きなおすつもり?みんなに笑われるよ、あれだけの練習量が一瞬で無駄になるね、学位も取れないよ。’
徐々に夜の10時に時間が迫ってきて、普段着からリサイタル用のドレスと靴に着替えます。’普段と違うけどこの洋服でジェニファーとご主人にも来てもらって演奏を聴いてもらったから大丈夫だと思う。。。’と自分に言い聞かせ、また軽く練習。練習の合間には自分のリサイタルのプログラムを見たりして、’あー本当にこのインディアナ大学で自分のリサイタルをするんだ’とプログラムに書いてある名前が今更自分の名前であることを確認しながらまた軽く練習。
夜の9時30分頃には舞台袖に来るようにとの事だったので、いよいよ自分のリサイタルプログラムを持って先生のオフィスを出ます。’大丈夫、リサイタルホールは私の家。雰囲気、温度、スポットライトの強さ、ホールの広さも全部分かってるから大丈夫。私の家に友達を招待したようなものだから大丈夫’と何度何度も自分に言い聞かせ、リサイタルの準備をしてくれているスタッフの人にプログラムを渡して舞台袖で待機。同じスタジオの友達や玲子先生がこんなにも夜遅くに私のリサイタルに来てくれた、とても嬉しい事だけど同時に申し訳ない。だって普通ならこの時間は家で寛いでいたりみんな勉強をしているはずなのに、私のリサイタルに来てくれた、絶対に、絶対に失敗は出来ない。。。
そして時計が夜10時になり私のリサイタルスタート。スタッフの人が客席にアナウンスをして、私は舞台に出ていき演奏開始。最初はベートーベンのソナタ4番。30分演奏を弾き続けます。玲子先生に教えてもらったように、いつもの練習のように演奏すれば大丈夫。演奏の途中で弾きながらも誰かがドアを開けてホールに入ってくる音や話し声が聞こえてきます。私たちの耳は訓練されているせいか同時に色々な音を聞くことが出来るので、そんな余計な音まで聞こえてきます。日頃、マスタークラスなどで演奏しながら’あー演奏なんてしなければよかった’と心の悪魔がささやく事もあるのですが、このリサイタルの時にはこの悪魔は出てきませんでした、必死過ぎだから?ベートーベンソナタは無事、何事もなく間違える事もなく忘れることもなく終わってお辞儀をして舞台袖へ。全て何度も何度も行ってきた予行練習通り。なぜか緊張もしていないし、変な気分でもない。とにかく無事終わらせたい、それだけ。
そしてシューマンのHumoreske、これも30分弾きっぱなし。また舞台に出てお辞儀をしてピアノに向かいシューマンをスタート。始めは良かったけど途中の速い箇所で’あれ、なんかいつもの弾き方と違う、まずいな、大丈夫かな、やっぱり緊張してるのかな。’と苦しみながらなんとかその部分は通過。その後の演奏は幸いにも崩れる事無く最後まで無事に終了。お辞儀をして舞台袖に退出。拍手はまだ続いているのでまた舞台に出てお辞儀をして、完全にリサイタルは終了。すべてリハーサル通りに終わりました。全部終わった。。。
あっという間。本当にあっという間に終わってしまった。失態はしていないので学位は取れるだろう。だけどこの感覚はなんだ?あれだけ練習したのに一瞬で終わった。リサイタルが終ってから友達や玲子先生がリサイタル無事成功おめでとう、と声をかけてくれてスタッフの人達も即座にリサイタルの後片付けを始めています。私もみんなが帰ったのを確認し、またホールを覗いては、この大学を選んでインディアナ州に来て大学を見た時のあこがれ、何のために自分はこの州に引っ越しをしたのか、玲子先生に出会った瞬間、それから先生の弟子になり、ピアノを教わり必死に毎日毎日練習をしてきた、いつだって怠ける事無くずっと練習し続けた、でもこのリサイタルが終ったと同時に自分のピアノ勉強も終わってしまった。。。なぜか悲しい気持ちになりました。もっと自分は出来るはず。。。もっと勉強したい。。。
私の大学院での目標はこのようにあっという間に終わってしまい、嬉しいような何かを失ったような気分。リサイタルが終った数分のうちに次のチャレンジを決めていました、ピアノではいつでも目標を持っていたい!このお話は次回にしようと思います。では皆様良い週を!Have a nice week and stay safe !